牛の作る豊かな土が、
いい作物を生む
明治や昭和の時代まで、日本の農村の家々には「役牛(えきぎゅう)」と呼ばれる牛がいました。田畑を耕したり荷物を運搬したりと、機械のない時代、牛が重要な役割を担っていたのです。その後、時代と共に役牛は農家から姿を消しますが、同時に、とある「循環」も農家から失われていきました。牛の糞は堆肥となり、田畑の土を豊かにします。その土が質のよい米や野菜を育て、人の食べない野菜クズや稲藁は牛が食べ、またその糞が堆肥となる……。多くの農村から失われたそんな循環が、南小国の集落には、まだ残っています。
牛の生む循環を大切にしながら農業に取り組むひとりが、地元農家の佐藤勝明さん。代々、農家を営む佐藤さんの家では、役用のあか牛がお父さんの手で大事に育てられていました。「若い頃は、いいイメージを牛に持っていなかった」と笑う佐藤さんですが、畑の堆肥作りを通じ、牛の生む循環の大切さに気づき、「地元産のあか牛」を育てる挑戦をはじめました。
あか牛の文化を、次の世代へ継ぎたい。そんな佐藤さんたちの想いは、黒川温泉の人たちとともに、少しずつ輪となって広がっています。